Share

第三話 長女の秘密

Author: 天咲琴乃
last update publish date: 2026-09-23 21:57:15

「お姉ちゃん、白状しなさい!」

篝火神社の境内に、ことねぇの声が響いた。

イズミは困ったように微笑んだ。

「何を?」

「好きな人!」

「いません」

「じゃあ、なんで顔が赤いの!」

「暑いからよ」

「今日、涼しいけど?」

「……少し歩いたから」

「お姉ちゃん、嘘が下手すぎる!」

ことのが隣で頷いた。

「同感」

「ことのまで……」

イズミは小さくため息をついた。

三姉妹の長女として、妹たちの面倒を見るのは慣れている。

けれど、自分のことを聞かれるのは苦手だった。

まして、恋愛の話など。

「ほら、お姉ちゃん!」

ことねぇが顔を近づける。

「年上? 年下? 同い年?」

「だから、いないわ」

「眼鏡?」

「どうして眼鏡なの?」

「知的で優しい男性って、いいじゃん!」

「それは、あなたの好みでしょう?」

「まあね!」

ことのがぼそりと言った。

「自白した」

「違う! 今はお姉ちゃんの話!」

イズミは二人を見て、思わず笑ってしまった。

こんなふうに笑える朝が、ずっと続けばいい。

そう思った。

昨夜、村の青年が亡くなった。

あのとき、山に灯った炎。

ことねぇが口にした「大嫌い」という言葉。

そして今朝、祖母が告げた掟。

人間の男性に、恋をしてはならない。

その意味を、イズミは考えないようにしていた。

「……私、掃除の続きをしてくるわね」

「あっ、逃げた!」

「逃げてないわ」

「絶対逃げた!」

ことねぇの声を背中に受けながら、イズミは社務所へ向かった。

角を曲がり、妹たちの姿が見えなくなる。

ようやく息を吐いた。

胸元に手を当てる。

そこには、小さな守り袋があった。

薄い青色の布。

銀色の糸で、水の流れに似た模様が刺繍されている。

イズミはそっと袋を握った。

「……どうして、今さら」

誰に向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。

そのとき。

「三田村さん」

背後から声がした。

イズミは振り返った。

参道の向こうに、一人の青年が立っていた。

村の診療所に勤める医師、瀬川遥人。

篝火村へ来て、まだ半年ほどになる。

穏やかな目元に、落ち着いた声。

昨日の祭りでも、体調を崩した村人の手当てをしていた。

「瀬川先生」

「よかった。まだ神社にいたんですね」

遥人は小さな紙袋を差し出した。

「昨日、妹さんが落としていました」

中に入っていたのは、黄色い髪飾りだった。

ことねぇのものだ。

「あら……ありがとうございます」

「昨日は大変でしたね」

遥人の表情が曇る。

イズミも目を伏せた。

「亡くなった方のこと、まだ詳しくは分からないんですよね」

「ええ。警察も調べていますが……」

遥人はそこで言葉を切った。

「何か、気になることが?」

イズミが尋ねる。

「いえ。ただ、普通の火傷とは少し違うようで」

「……違う?」

「詳しいことは、まだ言えません。僕も直接診たわけではないので」

遥人は申し訳なさそうに笑った。

「変な話をしてしまいましたね」

「いいえ」

二人の間に、短い沈黙が落ちた。

風が吹く。

境内の木々が揺れた。

遥人がイズミの手元に目を留める。

「そのお守り、綺麗ですね」

イズミは反射的に胸元を押さえた。

「……古いものなんです」

「大切なもの?」

「ええ。ずっと持っているんですけれど、誰にもらったのか覚えていなくて」

言ってから、イズミは自分でも不思議に思った。

なぜ、そんなことを話したのだろう。

遥人は笑わなかった。

「そういうものって、ありますよね」

「先生にも?」

「あります。理由は分からないのに、手放せないもの」

その声が、少しだけ優しくなった。

イズミの胸が小さく跳ねた。

――だめ。

今朝、聞いたばかりではないか。

人間の男性に、恋をしてはならない。

それなのに。

「三田村さん?」

「……はい」

「顔色が悪いですよ。少し休んだほうがいい」

遥人が一歩近づいた。

その瞬間だった。

ぽたり。

イズミの頬に、水滴が落ちた。

「……雨?」

見上げる。

空は晴れていた。

雲ひとつない青空。

なのに、もう一滴。

ぽたり。

遥人の肩にも、水が落ちた。

「おかしいな」

彼が空を見上げる。

イズミは動けなかった。

胸元の守り袋が、冷たくなっていた。

まるで、川の水に浸したかのように。

「三田村さん?」

「すみません。私、戻ります」

イズミは頭を下げた。

「えっ、あの……」

返事を待たずに歩き出す。

背中に遥人の声が聞こえた。

けれど、振り返れなかった。

一歩。

二歩。

足を速める。

雨粒が増えていく。

晴れた空から、イズミの周囲だけに降っていた。

「……どうして」

守り袋を握りしめる。

そのとき。

耳元で、誰かが囁いた。

『イズミ』

低く、静かな男の声。

イズミは立ち止まった。

振り返る。

誰もいない。

『……その男から離れろ』

息が止まった。

「誰……?」

返事はなかった。

ただ、守り袋の銀糸が淡く光っていた。

遠い神域。

水の底に座す男は、静かに目を閉じた。

目の前には、水面に映るイズミの姿。

その隣にいた人間の男。

高龗は、指先で水面に触れた。

波紋が広がる。

「……まだ、思い出さぬか」

その声には、怒りよりも深い悲しみが滲んでいた。

彼は長い間、待っていた。

彼女が帰ってくる日を。

けれど、今はまだ迎えに行けない。

高龗は水面から手を離した。

「イズミ」

その名を呼ぶと、神域の水が静かに揺れた。

「お前が誰を想おうと、俺は待つ」

そして、誰にも届かない声で続けた。

「……だが、どうか無事でいてくれ」

Continue to read this book for free
Scan code to download App

Latest chapter

  • 巫女は恋をしてはいけないー三姉妹の巫女の禁断の恋ー   第十二話 旦那様、顔を見せてください

    『今度こそ、ちゃんと顔を見て言うから』雷鳴とともに、鳴雷の声が消えた。「……え?」ことねぇは夕焼けの空を見上げた。「ちょっと待って。何を言うの?」返事はない。「雷様?」沈黙。「そこ一番大事なところ!」ことねぇが叫ぶ。ことのが隣で首を傾げた。「告白じゃない?」「こ、告白?!」「愛してるって、もう言ってたけど」「それは三人まとめてだったじゃん!」イズミが困ったように笑う。「まとめて、ではなかったと思うけれど」「じゃあ何?! プロポーズ?!」「もう結婚してるらしいよ」「そうだった!」ことねぇは頭を抱えた。恋愛の順番がおかしい。顔も知らない。名前も知らない。付き合った記憶もない。なのに結婚している。「乙女心を完全に置いていってる!」「何の話?」ことのの冷静な声が刺さる。そのとき。ドン――。再び山が揺れた。三本の光。青。金。赤。それらは夕空を貫き、やがて一つの円を描き始めた。祖母が本殿へ走る。「三人とも、中へ!」「おばあちゃん、あれ何?!」「神域と人の世を隔てる門です!」ことねぇの足が止まった。「……門?」イズミが息を呑む。「では、向こう側には……」祖母は答えなかった。答える必要もなかった。水の音。雷鳴。そして、炎が爆ぜる音。三姉妹には分かった。――いる。あの向こうに。自分たちを知っている三人が。「高龗様……」イズミが呟く。ことのも胸元に手を当てた。「火の人……」ことねぇは空を睨んだ。「雷様!」ドォン!「返事くらいしなさいよ!」バリバリバリッ!「雷で返事すんな!」ことのがぼそりと言った。「会話成立してる」「してない!」祖母が本殿の扉を開いた。三人が中へ入る。神前には、古い神楽鈴が置かれていた。誰も触れていない。それなのに。ちりん。鈴が鳴る。青い光。ちりん。金色の光。ちりん。赤い光。三度目の音が響いた瞬間。神前の空間が歪んだ。「……何?」ことねぇがイズミの袖を掴む。歪みの向こうに、別の景色が現れた。どこまでも広がる水面。雷雲に包まれた金色の空。赤い花が咲き乱れる庭。三つの景色が重なっている。そして。そこに。人影があった。三人。「……嘘」イズミが震える。最初に姿を現したのは、水の中に立つ男だっ

  • 巫女は恋をしてはいけないー三姉妹の巫女の禁断の恋ー   第十一話 私たちは、帰るらしい

    『三十年の修練を終えし時、花嫁は再び神域へ帰る』イズミは、もう一度その一文を読んだ。蔵の中が静まり返る。ことねぇが古文書を覗き込んだ。「……つまり?」誰も答えない。「二十歳から五十歳までが三十年でしょ?」「そうね」イズミが頷く。「私たちが巫女として務める期間と一致するわ」ことのが続ける。「五十歳になったら神域へ行くんじゃなくて……帰る?」「そう書いてあるわね」「…………」ことねぇは腕を組んだ。そして。「意味が分からん!」「私も」ことのが即答した。「だよね?!」祖母は古文書を見つめたまま動かなかった。「おばあちゃん?」ことねぇが呼ぶ。祖母はゆっくり顔を上げた。「私も……この記述を見るのは初めてです」「え?」「三田村家では代々、五十歳になった巫女は神域へ召されると伝えられてきました」イズミが尋ねる。「おばあさまも、そう教わったのですか?」「ええ」「では、帰るという意味は……」「分かりません」祖母は首を横に振った。ことねぇは天井を見上げた。「雷様ー」『なんだ』返事が早い。ことねぇは目を細める。「聞いてた?」『……まあ』「説明して」『無理』「なんで?!」『まだ話せねえ』「またそれ!」ことねぇは頬を膨らませた。「妻だの結婚式だの言うだけ言って、肝心なところ全部秘密じゃん!」『それは……』「私たち既婚者なんでしょ?」『…………』「そこもまだ黙る?!」ことのが横から言った。「昨日、結婚式したって自白してた」「そうだった!」『自白って言うな!』ことねぇは腰に手を当てた。「じゃあ質問!」『嫌な予感しかしねえ』「私たち、いつ結婚したの?」『…………』「何歳?」『…………』「どこで?」『…………』「新婚旅行は?」『知らねえよ!』「そこだけ答えた!」イズミが笑いを堪えている。ことのは真顔だった。「次、私」『お前もか?!』ことのは桜色の桐箱を見る。「火の人」『……ああ』「私たち、夫婦なの?」『…………』「はいか、いいえ」逃げ道を塞いだ。しばらくして。『……はい』ことのが固まった。ことねぇが叫ぶ。「認めたー!」「うるさい」「ことの人妻じゃん!」「お姉ちゃんもでしょ」「あっ」『今さらかよ』雷様の呆れ声が聞こえた。イズミ

  • 巫女は恋をしてはいけないー三姉妹の巫女の禁断の恋ー   第九話 炎のひとは、やさしい

    「……寒くないよ」ことのがそう答えると、桐箱の中の銀糸が淡く光った。『……よかった』今度は間違いない。男の声だった。低く、穏やかで。焚き火のそばにいるような、不思議な温かさを持った声。ことのは桜色の花嫁衣装を見つめた。「……誰?」『…………』「聞こえてる?」『聞こえている』「じゃあ、誰?」『……今は、言えない』ことのは眉を寄せた。「また?」『また?』「イズミお姉ちゃんの人も、ことねぇの雷様も、名前を教えてくれない」少しの沈黙。それから男は、わずかに笑った。『そうか。あいつも黙っているのか』ことのの目が細くなる。「知り合い?」『……しまった』「知り合いなんだ」『忘れてくれ』「無理」『そうだろうな』妙に素直だった。ことのは少しだけ笑った。その様子を、離れたところからことねぇがじっと見ていた。「…………」イズミが気づく。「どうしたの?」「ことのが一人で喋ってる」「声が聞こえているのでしょう?」「うん」「なら、邪魔をしてはいけないわ」「でも気になる!」ことねぇはじりじり近づいた。「どんな人? イケボ? 年上っぽい? 優しい? 俺様?」「うるさい」「ことの冷たい!」ことのは姉を無視して、桜色の衣へ視線を戻した。「あなた、火の神様?」『……なぜそう思う?』「この服、炎の模様だから」『なるほど』「あと、触ると温かい」『熱くはないか?』「うん」『ならいい』また、それだ。寒くないか。熱くないか。この人は、ずっと自分の心配をしている。「……変な人」『そうか?』「自分のことは何も言わないのに、私のことばっかり気にしてる」声が止まった。「どうして?」返事はない。ことのは待った。急かさず、ただ待った。やがて男は静かに言った。『……大切だからだ』ことのの頬が、ほんの少し赤くなった。「…………」『ことの?』「何でもない」『具合が悪いのか?』「悪くない」『暑い?』「暑くない」『なら――』「心配しすぎ」『……すまない』謝るんだ。ことのはますます困った。もっと怖いものだと思っていた。神様というものは、人間を見下ろして、命令して、怒れば祟るものだと。けれど。この声は、あまりにも優しい。「……じゃあ」ことのは小さく尋ねた。「あなたのこと

  • 巫女は恋をしてはいけないー三姉妹の巫女の禁断の恋ー   第八話 蔵の奥の花嫁衣装

    「……眠い」翌朝。ことねぇは朝食の席で、盛大なあくびをした。「昨日、何時に寝たの?」イズミが尋ねる。「分かんない」「また夜更かし?」「ちょっとお喋りしてた」ことのが箸を止めた。「誰と?」「雷様」「…………」「…………」ことのは味噌汁を一口飲んだ。「友達できてよかったね」「その言い方やめて!」イズミは困ったように笑った。「昨日の声の人?」「そう! 名前は教えてくれないんだけどね」「何を話したの?」「えーっと……」ことねぇは少し考えた。昨夜のことを思い出す。怖かった気持ち。雷様の言葉。それから、何度も名前を呼んで遊んだこと。「……内緒!」ことのが顔を上げた。「何で?」「何でも!」「怪しい」「怪しくない!」イズミが微笑んだ。「仲良くなれたのね」「まあね!」ことねぇは得意げに胸を張った。その瞬間。パチッ。箸の先から、小さな火花が散った。「いたっ!」ことねぇが手を引っ込める。ことのは冷静に言った。「静電気の友達もできたね」「いらない!」イズミが笑いを堪えていると、廊下から祖母の声がした。「三人とも、食べ終わったら蔵へ来なさい」三姉妹は顔を見合わせた。昨日の約束だ。古い祠。川から現れた白い手。そして、雷の声。祖母は、何かを知っている。ことねぇは残りのご飯をかき込んだ。「よーし! 宝探し!」「古文書を調べるのよ」イズミが訂正する。「分かってるって!」ことのが立ち上がった。「お姉ちゃん、口にご飯ついてる」「えっ、どこ?!」「反対」「こっち?!」「反対」「もう取って!」ことのはため息をつきながら、姉の頬についた米粒を取った。神社の蔵は、本殿の裏手にあった。重い木の扉。錆びた金具。祖母が鍵を差し込むと、乾いた音が響いた。ぎい、と扉が開く。中には古い箪笥や木箱が並んでいた。埃っぽい匂い。高い窓から、細い朝日が差し込んでいる。「うわあ……」ことねぇは目を輝かせた。「本当にお宝ありそう!」「触る前に聞きなさいね」イズミが言う。「はーい!」ことのが棚を指さした。「……あれ、何?」奥の棚に、三つの桐箱が並んでいた。それぞれの蓋には、異なる模様が彫られている。水。雷。炎。祖母はその前で足を止めた。「……まだ、残っていたのです

  • 巫女は恋をしてはいけないー三姉妹の巫女の禁断の恋ー   第七話 雷様は口が悪い

    金色の稲妻が、青空を裂いた。「ぎゃあああああ!」ことねぇは頭を抱えてしゃがみ込んだ。轟音が山を揺らす。祠の前に立つ祖母の足元へ、雷が落ちた。――そう見えた。けれど、地面は焦げていなかった。祖母も無事だった。雷が貫いたのは、祖母の背中にまとわりついていた黒い影だった。『ギィィィィッ!』耳をつんざくような声。影は苦しげに身をよじり、祠の奥へ引きずり込まれていった。扉が勢いよく閉まる。静寂。ことねぇは恐る恐る顔を上げた。「……生きてる?」「生きてるわよ」イズミが答える。「ことのは?」「生きてる」「おばあちゃんは?!」祖母はその場に膝をついていた。三人は駆け寄った。「おばあちゃん!」イズミが肩を支える。祖母は顔を上げ、孫たちを見た。「……どうして、ここへ」「おばあちゃんが心配だったから!」ことねぇが答える。「手紙を見たんです」イズミも言った。祖母は目を閉じた。「来てはいけないと、書いたでしょう」「でも!」ことねぇは言い返しかけた。そのとき。『だから言っただろ!』頭の中に、男の声が響いた。「うわっ!」ことねぇは飛び上がった。「また出た!」ことのが振り向く。「何が?」「知らない男!」『まだ知らない男扱いかよ!』「だって知らないし!」『俺はお前を――』声が途切れた。ことねぇは眉を寄せる。「……何?」返事はない。「おーい?」『……何でもねえ』「言いかけたじゃん!」『気にすんな!』「気になるわ!」イズミがことねぇの肩に手を置いた。「ことねぇ。誰と話しているの?」「さっきの声! 雷の男!」祖母の表情が変わった。「……雷?」ことねぇは頷いた。「口が悪いの!」『おい!』「あと、うるさい!」『お前にだけは言われたくねえ!』「何よ!」ことのがぽつりと言った。「……似た者同士?」「どこが?!」ことねぇと男の声が、同時に叫んだ。ことねぇは固まった。「…………」『…………』ことのは首を傾げた。「今、誰かと声が重なった?」「……気のせい!」『気のせいだ!』「だから真似しないで!」『してねえよ!』イズミは困ったように微笑んだ。「……とにかく、ここを離れましょう」祖母も頷いた。「ええ。日が暮れる前に」ことのが祠を見上げた。「中にいたの、

  • 巫女は恋をしてはいけないー三姉妹の巫女の禁断の恋ー   第六話 雷鳴とレモン飴

    「絶対に行っちゃ駄目だからね」ことねぇは腕を組み、妹に念を押した。「分かってる」ことのは答えた。「古い祠には近づかない。日が沈んだら外出禁止」「そうそう」「で、お姉ちゃんは?」「私は行く」「……は?」「ちょっと様子を見るだけ!」ことのは無言で姉を見つめた。「何?」「今、自分で何て言った?」「絶対に行っちゃ駄目」「その三秒後は?」「私は行く」「…………」「…………」ことのは深く息を吐いた。「おばあちゃんに言う」「待って待って待って!」ことねぇは慌てて妹の腕を掴んだ。「違うの! これには深い事情が!」「どんな?」「……好奇心?」「却下」「即答!」二人が言い争っていると、廊下の奥からイズミが現れた。「朝から何を騒いでいるの?」「お姉ちゃん!」ことねぇが駆け寄る。「ことのが冷たい!」「また?」「またって何?!」ことのはイズミを見た。「ことねぇが祠に行くって」イズミの笑顔が消えた。「……ことねぇ?」「はい」「おばあさまのお話、聞いていたわよね?」「聞いてました」「では、どうして?」ことねぇは視線を逸らした。昨夜から、気になっていた。山の中腹。篝火が灯った場所。あそこで男が死んだ。祖母は近づくなと言った。けれど、何があるのかは教えてくれない。「……私のせいかもしれないから」小さく呟くと、イズミが黙った。「昨日の人」ことねぇは俯いた。「私が大嫌いって思ったから、死んだのかなって」ことのも口を閉じた。「もし、あの祠に何かあるなら……」「ことねぇ」イズミが妹の手を取った。「一人で確かめに行く必要はないわ」「でも」「私たち、三姉妹でしょう?」イズミは優しく笑った。「何かあるなら、三人で考えましょう」ことねぇは目を瞬かせた。「……お姉ちゃん」「だから、勝手に行ってはいけません」「はい」「約束よ?」「はい!」ことのが横から言った。「返事だけはいい」「ことの!」そのとき。ゴロゴロ……。遠くで雷が鳴った。三人が窓の外を見る。空は晴れている。「……雷?」ことのが呟いた。ことねぇは肩をすくめた。「やだなあ。雷、苦手なんだよね」「さっきまで山に行こうとしてた人が?」「山と雷は別問題!」「どっちも危ないけど」「理屈で攻めないで!」イ

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status